MAFサマーキャンプ2025体験記
- 無刀会 合気道
- 6月24日
- 読了時間: 7分
更新日:6月25日
フランス、ルーマニア、アルゼンチン、ブラジル、インドネシア・・・関昭二師範の講習会は年間を通じて世界中で開催される。これらの中でも、ひときわ特別なのが、アメリカ・ウィスコンシン州ケノーシャで毎年6月に行われるMAF(Midwest Aikido Federation)主催のサマーキャンプだ。
日本語で言う「講習会」は、稽古はみんなで行うけれど、宿泊や食事は各自で手配するのが一般的だ。しかし、MAFサマーキャンプは違う。これはもう完全に「合宿」なのだ。稽古、宿泊、食事がすべてひとつのキャンパス内で完結する。参加者はまるで学生時代に戻ったかのように寝食を共にする。日本では社会人が1週間も休んで合宿に参加するのは至難の業で、合宿といっても週末の1泊2日がせいぜいだ。だからMAFサマーキャンプは本当に特別なイベントなのである。

サマーキャンプが行われたUniversity of Wisconsin-Parksideは、シカゴから車で北に1時間ほどのところにある森に囲まれた広大なキャンパスだ。大学寮に宿泊し、カフェテリアで3食をとり、体育館で午前・午後に関師範の稽古が行われる。短期留学さながらの日々。10代の頃に叶わなかった海外留学の夢が、思いがけず合気道を通して実現されたようだった。 参加費675ドルには、宿泊費・食費・稽古代すべてが含まれる。今のアメリカの物価を考えると破格に安いといえるだろう。とはいえ航空券は目が飛び出るほど高かったが。それでも、この体験は十分すぎる価値があり、かけがえのないものとなった。
6月14日土曜日の夕方に学生寮Pike River Suitesへチェックイン。到着時には主催のWentworthさんとMAFのメンバーたちがロビーで出迎えてくれた。Wentworthさんはシルバーヘアが素敵な知的で物静かな雰囲気の女性だ。 チェックイン当夜は夕食がなかったが、ベテラン参加者のKathleenが車でスーパーへ連れて行ってくれた。彼女はこのキャンプが始まった2001年から参加しているそうで、若者たちにテキパキと指示を出し、場を仕切る頼もしい存在だ。
寮の部屋はシンプルながらも機能的で快適だった。1〜2人部屋で各室にはベッド、デスク、クローゼットが備えられており、シャワーとトイレは2〜3部屋共有で使用する。共用部分にはソファーセットやダイニングセット、電子レンジや冷蔵庫も揃っている。
ランドリールームには洗濯機と乾燥機がそれぞれ8台ずつ並び、セキュリティカードにチャージして使う仕組みである。午前中の稽古で道着は汗まみれになるため、午後は替えの道着が必須だ。この設備のおかげで、洗濯に困ることはなかった。本当に助かった。
写真(左上から時計回り):
1. 学生寮(Pike River Suites)
2. 部屋のベッドとデスク
3. クローゼットスペース
4. 共有のリビング
5. 乾燥機
6. カフェテリアのあるスチューデントセンター(UW-Parkside Student Center)
食事は寮の隣の建物(Student Center)にあるカフェテリアでとる。正直、アメリカの食事には期待していなかったが、驚くほどヘルシーで満足度が高かった。メインメニューは日替わりで美味しいし、サラダバーとフルーツバーは毎食充実している。日本から持ってきたレトルト食品は全く出番がなかった。
便秘知らずの快腸な毎日が過ごせた。
デザートにチョコチップクッキーもあり、飲み物の種類も豊富。熱いコーヒーやお湯も用意されている。なんでも揃っているが、お酒だけはないのでスーパーに買い出しに行く必要がある。
写真(左から):朝食・昼食・夕食
日曜日から金曜日まで、午前2コマ・午後2コマの稽古が連日行われる。週3〜4回の稽古が普段のペースの私にとって、6日連続の稽古は未知の世界だった。前半だけ後半だけの参加も可能だが、終わってみれば、「6日間フル参加してよかった!」と心の底から思う。
最初の3日間はひどい時差ボケで、身体は重く、汗はベタベタだった。でも日を追うごとに身体が順応し、5日目にはサラサラとした汗に変わって絶好調。
稽古では、「取りは肚の力を腕(=相手との接点)に伝える」「受けは握力に頼らず、足を動かして接点を追い続ける」といったポイントを、技を変えながら何度も繰り返した。
関師範は何度も「“んぐっ!”という、肚から力を発する音で感覚を伝えてくださった。英語では “Gue!” だろうか。(言葉が通じなくてもわかりやすい!)
毎日何時間もヘトヘトになるまで稽古しているうちに、肩の力が徐々に抜けて感覚が変わっていく。50代半ばの体は頑固で、普段の稽古では新しい感覚を掴みかけては次の稽古までに元に戻ってしまうが、1週間の集中稽古だと癖づけができたように感じる。 これぞ合宿の醍醐味だろう。
写真(左から)
1. 体育館(UW-Parkside Sports & Activity Center)
2. 体育館の廊下
3. 道場
合宿にはシカゴ周辺からだけでなく、テキサスやカナダのトロントなど遠方からも参加していた。
稽古では白帯でも繋がりを切らさぬように全身を使ってついてくる。恐れずに、屈強な男性にしっかりと受けを取っている女性の姿が印象に残った。とても慣れているので驚いたが、こちらでは初段までに8〜10年かかるそうだ。つまり白帯でも、稽古歴はかなり長いということになる。
合気道を始めた理由を聞いてみると、「技の不思議さに惹かれた」と答える人が多かった。昇級審査が年に1回しかないと聞いたが、それでも意欲的に稽古を続けるモチベーションは何なのだろう。もっと話を聞いてみたくなった。
大規模な講習会では、ともすれば腕試し目的に来て師範の示すテーマを無視する参加者がいて稽古しづらいことがある。
その点、このキャンプでは関師範のテーマが全体に共有され、非常に稽古しやすかった。人数が40人程度と少なく、毎日同じメンバーで学べるからだろう。MAFの先生たちが普段から丁寧に指導していることも大きいと思う。
写真(左上から時計回り):
1. スケジュール(朝8:30-9:30は参加道場の先生が指導)
2. 合気道野比道場の谷地元先生
3. 同上
4. デトロイト武道塾の前田先生
夕食後のお楽しみは「アイスクリーム・ソーシャル」。アイスクリームとトッピングのお菓子がたくさん並ぶ。夜な夜な甘い誘惑とともに、参加者同士の交流が深まる時間だ。2日目と4日目の夜には、関師範のQ&Aセッションもあった。
技術的な質問が多く、関師範は立ち上がって動きを交えて説明してくださる。朝から晩まで合気道漬けの毎日、まさに夢のような一週間だった。
写真:左から
1 アイスクリームソーシャル(アメリカではアイスクリームを囲んで交流会をする)
2 トッピング用のお菓子
3 関師範のQ&Aの時間
稽古以外でも参加者はフレンドリーに接してくれた。日本語で話しかけてくれる人も数人いた。大相撲を欠かさず観ているとか、星野源の曲で日本語を勉強しているとか・・合気道以外の日本文化にも興味を持ってもらえて嬉しい。カタコト英語でもなんとかなるけれど、次はもうちょっと話せるように、英会話を勉強しよう。
MAFのメンバーは本当に細やかでよく働いていた。朝1番に体育館に入り水分補給のドリンクの準備をしたり、午前と午後の1日2回ずつマット消毒をしたり、夜はアイスクリームやお菓子の用意をしたり。
植芝盛平翁先生の写真の横に生けられた花が途中で変わっていたのには、心底感動した。こういう心遣いが、キャンプの心地良い空気をつくっている。
写真(左から)
1. マットを拭き掃除するMAFメンバー
2. 植芝盛平翁先生と藤平明先生の写真と花
3. 水曜日には青と紫の花が生けられていた
このキャンプは、2001年から続いているそうだ。関師範と現地の人々の25年にわたる信頼の積み重ねがあってこそ、今のあたたかな雰囲気が生まれているのだろう。
この特別な空間は、長い時間をかけて築かれてきた、まさに宝物のような場所だ。
来年のサマーキャンプの日程はもう決まっている。6月14日〜6月19日(チェックインは6月13日)だ。また来年も行きたい!

Hitomi Akiyama
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